特集レポート

【エリア特集】2007-12-06

映画に登場した首都高
~ビジュアルとしての構造美~

 今や当たり前の存在となり、周囲の景色とも完全に馴染んでいる首都高。しかし、よくよく考えれば、ビルの合間をぬって走る構造は、非常に稀有なものだ。初めて見る人にとってみたら、とても不思議なものとして写るかもしれない。事実、首都高はさまざまな映画に登場している。そこで、映画ごとにどの場所が撮影されたのかを確認し、実際に現地へ足を運んでみた。

■惑星ソラリス

 監督であるタルコフスキーの名を世界に知らしめたことでも有名なこの作品は、太陽系とは別の銀河系に属する惑星ソラリスを舞台に展開していくSF宇宙映画。「2001年宇宙の旅」と比肩されることも多く、'72年のカンヌ国際映画祭でも審査員特別賞を受賞している。

 この映画で首都高は、なんと未来都市として登場している。'72年の夏に撮影したというから、3号線が東名高速と接続したばかりの頃だ。今となれば未来どころか大昔の風景なのだが、それでも映画を見ていると未来都市に見えてくるから不思議なものだ。当時の首都高は、まわりから見れば異空間のような不思議なオーラを放っていたのかもしれない。

 さて映画の中では首都高のどこが登場したかと言うと、赤坂トンネルや霞ヶ関トンネル、一の橋ジャンクションから谷町ジャンクションなどが登場する。現在のトンネルと比べれば明るさは半分程度。それがまた不思議な空間を見事に演出している。

 未来都市のビジュアルとしては、案内板に思い切り「赤坂トンネル」や「飯倉出口200メートル」の表示があり、果ては路肩に故障車とおぼしきクルマが止まってたりするのだが、それはご愛嬌。建設ラッシュのビル群など、当時の日本の状況をつぶさに映しているので、それはそれで見ていて楽しいものだ。

 まずは赤坂トンネル。首都高が国鉄総武線と平行してトンネルに入る。そして紀の国坂、赤坂へとやってくる。写真では画面の右奥が赤坂見附。

 さて、赤坂見附にやってくると、Aの場所に前述の故障車が停まっている。こんな状況だとすぐにパトカーが来そうなものだが、故障車が単体でいるということは停まって間もないからだろうか。ちなみにその現場(写真右の赤○)には、現在、監視カメラがついている。もしかしてこの故障車が設置のきっかけなのだろうか。

 赤坂見附は、劇中2度登場する。2回目はBの都道府県会館の高層階から現在のサントリービルの方向にカメラを向け、赤坂見附全体を撮っている。なおここまで上がらなくても、Cの場所にある歩道橋から見た赤坂見附の交差点もなかなかの見晴らしだった。

 赤坂見附を通り抜けたクルマは、霞ヶ関トンネルを通る。ここは明るさと暗さが交互にやってくる通路として描かれている。その後すこし会話のシーンを挟んで、今度は一の橋ジャンクションが登場。

 赤羽橋方面からこの一の橋に入り、クルマは赤い矢印のように走っていった。

 飯倉~谷町方面に向かう。「飯倉出口200メートル」と表示されている。劇中でもそのまま登場した。

 ここは谷町ジャンクション。クルマは矢印の霞ヶ関方面へ進んでいく。

 最後に首都高が撮影された裏話を少々。実はこの未来都市、大阪万博で行う予定が、許可の問題などで急遽変更になったものなんだとか。結果的には、未来都市というか、妙な空間に感じることは間違いないので、こちらのほうが正解だったのかも。

■都市とモードのビデオノート

 「黒の巨匠」と呼ばれる世界的なファッションデザイナー山本耀司をフォーカスし、東京とパリ、モードと映画のアイデンティティを語らうドキュメンタリー。山本耀司に質問しているのは、前述の「東京画」でも監督を務めたヴィム・ヴェンダース。この映画の中にも、首都高の風景が実に効果的に登場している。

 作品のリリースは'89年だが、撮影は'88年。もう20年近くも前のことになる。まだレインボーブリッジも横浜ベイブリッジも完成していない頃のことだ。この作品では、3号線の分岐手前の路面、一の橋、潮留から浜崎橋の眺望、堀切ジャンクションが登場する。

 登場する場所からは、ちらほらと変化を見つけることができる。まずは都心環状線から3号線に入る分岐の手前。一般道でいうと溜池交差点付近の路面には、「渋谷」とペイントされた文字がある。このフォントは今とは違って、やや角張ったフォントが使われている。

 次に登場するのは堀切ジャンクション。ここはなんら変わっておらず、映画で見たシーンとまったく同じ光景を眺めることができる。この場所で赤い橋を3カット撮影していて、それぞれのカットのカメラが設置された場所は下の地図や写真の通り。

 地図上のA、B、Cは、実際は下の写真のような場所。

 ここに立つと、映画に登場したのと同じ写真が撮れる。

 続いて一の橋。堀切ジャンクションの赤い橋がここでも登場し、一の橋の交差点の混雑の上を飛び越えるように通っている。そのときのカメラのポジションはこの地図の場所。

 最後は、潮留から浜崎橋にかけての眺望。新橋の土橋入り口付近の高いところから、東京港方面にカメラを向けている。そのアングルが狙えるところはここ。

 それにしても不思議なのは、堀切ジャンクション。東京の盛り場ではなく、なぜここを選び、何カットも撮ったのか。どんなことを言いたかったのかということ。他の場所に比べて登場時間は長いのに、セリフも字幕もまったく入らず、ただじっと赤い橋を写している。そのことを撮影の現場に立って考えてもいいし、単純に写真好きとして、ヴェンダース監督が撮っていない、ジャンクションの魅力的なアングル探しをしても楽しい。

■ロスト・イン・トランスレーション

 東京という街を舞台に、出会いと別れにまつわる人間模様を描いたのがロスト・イン・トランスレーション。CM撮影のために日本を訪れたハリウッドスターが、滞在先のホテルで出会った人妻と顔を合わせるたびに親しくなり、お互いに惹かれあっていくというストーリー。ソフィアコッポラ監督が手がけたこの作品は、'04年のアカデミー賞脚本賞を受賞している。

 他の作品に比べ新しいということもあり、この映画には首都高のそして東京のランドマークとも言えるレインボーブリッジも登場する。そのほか、赤坂見附、霞ヶ関トンネル、新橋入り口から丸の内出口までといったところも出てくる。

 レインボーブリッジは、仲間数人とともに夜遊びに出た主人公とヒロインが、二人だけで抜け出すシーンに登場する。ライトアップが美しい橋は、普段のエリアから外側に踏み出す象徴のように見える。このシーンは走行中のクルマの中から撮影されたものなので、映画の1シーンとまったく同じシチュエーションを味わうこともできる。

 その後、首都高が登場するのはエピローグ。主人公が宿泊先の新宿のホテルを引き払い帰途に着くとき、移動する道としてあちこちを通る。まず、赤坂見附。ちなみにこの場所は、惑星ソラリスでも撮影したポイント。

 薄暮に染まる赤坂プリンス(A)と、行く先を告げる情報版(B)が続けざまに写される。この様子はすぐ横の歩道からも見ることができる。

 次に登場するのは霞ヶ関トンネル。主人公の乗ったハイヤーがトンネルに吸い込まれていく。

 この場所を訪れようと内堀通り沿いに歩いても(A)、実はフェンスが邪魔でよく見えない。そんなときは反対側の丘の上にある憲政記念館の西洋式庭園に行くと良い。霞ヶ関トンネルを窺うことができ、さらに桜田濠やその向こうに日比谷が見える眺望が開けてくる。

 そしていよいよエピローグ。新橋入り口付近で、新しいカットが始まる。車中の主人公がふと東京の風景に目をやる。その場所は有楽町の数寄屋橋付近。そして車は走り、西銀座ジャンクションを越え、丸の内出口に近づいたところでスタッフロールになる。

 実は、新橋入り口付近は別の映画のロケ地にも近接していた。

 右下は「ロスト・イン・トランスレーション」で車が走りぬけたところ。左上は「都市とモードのビデオノート」で東京港方面を狙ったところ。赤坂見附や霞ヶ関トンネルは、ソラリスの撮影でも使われたロケーションでもあり、こうした共通項を見つけるのも楽しみの一つではないだろうか。

■東京画

 前述の「都市とモードのビデオノート」の監督を務めたヴィム・ヴェンダースが、敬愛する小津安二郎へのオマージュを綴ったドキュメンタリー。小津の作品「東京物語」の主演、笠智衆や撮影を担当した原田雄春らにインタビューをしつつ、舞台となった東京の日常を映像に収めている。

 この映画が撮影されたのは'83年というから、首都高はまさに路線の拡張ラッシュの時。今から約25年前のことだ。この映画には、日比谷、芝公園出口付近、東京タワーから見た浜崎橋と赤羽橋、渋谷などが描かれている。

 まず日比谷。撮影当時、有楽町マリオンは建設中。数寄屋橋の交差点から国鉄線を挟んで反対側から晴海通り沿いを撮影している。この位置関係から、カメラの設置場所と目されたのがここ。

 このビルのエレベーターは屋上までのボタンはあるものの、現在は安全管理上、関係者以外は屋上に出られない。しかし、その下の焼肉トラジにいくと、店内には有楽町方面の景色が見える一角がある。撮影当時より、ちょっと目線は下がるが、映画に思いを馳せつつお肉を味わうというのも一興かもしれない。

 芝公園出口付近は移動中のシーンだった。黒い空をバックに光る東京タワーが入り、なんとも荘厳なシチュエーション。この映像は、車中で小津安二郎の描いた日本の完璧さと、来日当時の日本に溢れる映像やチープな文化の氾濫に憂いたり思案しているシーンで使われていた。

 東京タワーから見た浜崎橋と赤羽橋。東京タワーに登り、ヴェンダース監督とその友人は、眼下の街並みを見ながら映像について、映像との関わり方について、意見を交わす。シリアスな話をしている横で、子供たちが嬉々とした表情でその景色を眺めているギャップが興味深い。会話のシーンは第1展望台2階で撮られたようだが、街並みはさらにうえの特別展望台から撮っている。

 渋谷では南口の交差点を見ながら、友人の意見を検討し、ヴェンダース監督自身の考え方を整理するため自問自答しているシーンで使用されている。当時の映像から、推測するとAの位置から撮られたようだが、現在は店舗の裏側となるため、一般人が立ち入ることはできない。このシーンで描かれている渋谷の風景を同じ目線で見ようとしても、今は不可能だ。

 この映画では当時の首都高の状況だけでなく、竹の子族やテレビ番組など、文化や流行といった映像も残されている。その点では、ある意味四半世紀前の東京の縮図ともいえる映画なのかもしれない。

■まとめ

 映画を見た後でそのポイントに立ち、そこからの風景を見た時には少なからず感動を覚えるはず。苦労して探せば感動もひとしおだろうが、なかなか大変なので、ぜひ写真や地図を見て現地へ足を運んでもらいたい。その他にも当時の首都高の状況を俯瞰した映像が多く登場するので、映画だけでなく、少し昔の首都高や東京を懐かしむという意味でも楽しめる。

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