特集レポート

【インタビュー】2008-01-10

「事故死亡者5000人以下を目指す道路交通システム
~国家プロジェクトITS~」

交通事故のない、安心して走れるクルマ社会。これはひとつの究極に見えるが、しかし夢物語ではないのだ。じつは現在、国土交通省をはじめとする産学官がこのプロジェクトに連携して取り組んでいる。次世代の道路交通システムに必要なものはなにか。果たして本当に実現できるのか。日本が世界に先駆けて研究する「ITS」について取材した。

■世界一の安全と快適のための取り組み

 クルマの性能は日々進化を遂げている。ボディ構造としての衝突安全面はもちろんのこと、急制動時のブレーキのロックを抑制するABS、また横滑り防止機能(自動車各社の呼称はまちまちだがESPが代表的)といった、ドライバーを補助する電子制御技術もいよいよ一般的になったといえる。しかし、いくらクルマが高性能に進化したとしても、それを操る人間が安全運転を行えなければ事故はなくならない。

 人と道路の関係もまたしかり。事故や渋滞による社会的損失を抑え、「世界一安全で快適な道路交通を目指す」というのが、我が国の、スマートウェイ推進の取り組みとしてのITS(Intelligent Transport System)というわけである。

 この国家プロジェクトに位置づけられるITSの理念は、「人」「道路」「車両」を一体のシステムとして構築することにあるのだ。

■道路がクルマに先々の情報を語りかける!?

 では、その具体的内容とはどういったものだろうか。

 そもそもITSという言葉自体は、特定の技術を指し示しているわけではない。次世代の道路交通のあり方というものを包括的に表現しているにすぎない。つまりは「我々にとって快適かつ安全なITSを実現するために、個々にいろいろなアイディアがある」という理解の仕方だ。

 そのひとつのアイディアとしては、カーナビをキーデバイスにした道路状況の提供が考えられている。ドライバーがクルマで走行中、ITSに対応したカーナビの音声+画像によって前方の渋滞情報や合流支援、障害物に対する注意喚起などが精細にもたらされるという。

 こう聞くと現行のVICS(道路上のビーコンとFM多重放送によって渋滞や規制情報などをカーナビに提供するシステム)をバージョンアップさせた程度に思えるかもしれないが、とんでもない。情報の種類、およびピンポイントな精度には驚くべきものがある。もしいま考案されているとおりにシステムが構築されれば、ドライバーは数百メートル先の詳細な道路状況を常に把握しながら運転ができる。

 それも「混んでいる」からといって単純に地図が赤くなる程度のものではない。カーナビのモニターに、定点カメラによる実際の静止画が映し出される仕様だという。

 国内の主要な道路には現在すでにセンサーやカメラが一定間隔で配備されているが、将来的にはこれら綿密なITSサービスを提供するためにさらに増強され、車両との通信用にアンテナも新設される。いわば頭脳を持った道路インフラが、そこを通行する車両にアンテナを介して適宜情報を提供してくれるのだ。

 そう、すでに我々に馴染みのあるETCもこのITSに属するインフラ技術のひとつだ。ETCの利用率はいまや全国で70%を超え、懸案であった料金所渋滞をほぼ解消したうえ、CO2の削減効果も大きい。もちろん渋滞や混雑がなくなったことは事故の減少にもつながっており、あらゆる意味でITSの重要性を証明したといえる。

■首都高ではすでに試験的実装も

 しかしここまで高度なシステムを目指すならば、その整備には膨大な時間と費用が要るのではと思ってしまうが、予想外にそんなことはないらしい。

 というのもじつはこの車両と道路が通信するシステムは、すでに首都高4号線と5号線、都心環状線の一部に試験的に設置されていて、2007年10月にはサービスをデモ体験できる「スマートウェイ2007」が開催された。

 担当者に聞くところでは、もちろん新規にアンテナや中央装置を準備する必要はあるものの、既存のVICSを運営している情報取得システムを活用できる部分もあり、決してゼロからの出発ではないそうだ。

 こういった道路情報がより求められるのは過密な交通下にある都市部の主要道路がメインであることを考えると、このたびモデルケースとなった首都高のこの返答は心強く、ITSの実現はそう遠い未来でないと感じられた。

■普及のカギは専用の車載器が握っている

 その一方で気になるのは、この次世代道路サービスを受けるために必要となる専用の車載器のことだ。なぜ既存のVICSを受信しているカーナビなどで対応できないかというと、少しむずかしい話になるが、要は通信の規格の問題だ。

 ETCの通信は国際標準の5.8GHz DSRCという規格に準拠している。また、考案されているITS全体の情報通信もこの5.8GHz DSRCを前提としている。VICSはというと2.4GHzを採用しているのだ。

 しかし、ものは考えようだ。これを機にITSの情報通信がすべて5.8GHz DSRCに統一されることで、車載器も「ETCその他のITS通信機能を兼ね備えたカーナビ」というようなインターフェースの統合が可能となる。しかもなにより先述の、定点カメラによる実際の道路画像を閲覧するような大容量のデータ通信に対応できるのは5.8GHz DSRCの恩恵なのだ。

 車内にあれこれと複数の車載器を設置するわずらわしさから解放される。これだけでもユーザーのメリットは大きいと思うが、とはいえ買い替えのコストが高ければ普及の壁になってしまうだろう。ETCの例を見てもわかるように、ITSというものは端末が普及すればするほど全体の利得が高まっていくものだ。

 極端な例かもしれないが、たとえば見通しの悪いカーブの出口に障害物や故障車両があったとき、いくら自車だけITS端末を搭載していても、前後や隣を走行するクルマが未導入であっては不安はなくならないといえる。

 正式導入のあかつきには円滑な普及のため、車載器開発に参入するメーカー各社の企業努力とともに、道路インフラを管理する側の工夫にも期待したい。

■進化するカーライフ、可能性は無限

 さらにユーザー視点で期待することは、現在では数社の自動車メーカーが自社のカスタマー向けに運営しているテレマティクスとの連携である。テレマティクスとは車両のカーナビシステムと統括センターが相互に通信するもので、他車のリアルタイムの走行データを混雑情報として全体で共有することができる。

 ニュース配信のほか、音楽配信や有人のオペレーターサービスまでさまざまな需要に応えるそれは、まさに先進的なナビゲーションシステムであり、各社のこれらを将来のITSとして統合できればユーザーにとってこれほど便利なことはないだろう。

 また、すでにITSのスマートウェイ構想のなかに組み込まれているETCを応用した電子決済(特定の駐車場などが想定されている)も、参画企業や活用のシーンが増えることで、我々のカーライフはますます豊かなものとなっていくことだろう。

■まとめ

ITSの可能性は知れば知るほど、夢が広がるばかりだ。ただ、利便性ばかりが目的ではなく、ITSの第一義は「安全な自動車社会」であり、悲しい交通事故を1件でも減らすことにある。

 交通事故による死者は年々減少傾向にあるが、2006年に6352人だった死者数を、2012年末にはさらに5000人以下にするというのが政府目標。日本がこれから迎えるであろう超高齢化社会に向けても、誰もが安心して出かけることのできる道路交通の実現を願ってやまない。


国際フォーラムで「スマートウェイ2007」-ITSシミュレーターも 国土交通省道路局ITSホームページ

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