特集レポート
首都高の景観デザイン(1)
~橋脚のカタチは十種類以上~
首都高は、柱で道路を支えてその上をクルマが走る高架構造が全体の約8割(約240キロメートル)とほとんど。今回は、その道路を支える柱こと橋脚にスポットを当ててみよう。実は橋脚にはさまざまな形状があるのだが、そのデザインにはある明確な意図が隠されていたのだ。
建築デザイナーからのメッセージ
首都高のほとんどを占める高架道路。しかし頭上を横切る幅の広い道路は、その下を通行する人々にとって、圧迫感や閉塞感を感じさせやすい存在だ。そこで橋桁や橋脚などをデザインする際は、必要な強度を確保しつつも、なるべく周辺景観に配慮し、開放的な印象になるよう工夫がなされている。
なかでも橋脚には、その形状に多くのバリエーションが存在する。道路が作られた立地条件や、支える車線の本数などさまざまな要素によって、たくさんのバリエーションが生み出されたわけだが、今回はその橋脚に着目し、代表的な形状やデザインの工夫などを紹介していこう。
●T型橋脚
ドッシリとした安定感をもたらすと共に、見る人に安心感を与えているのがこのT型橋脚。ただ、横方向に伸びた梁(横梁)が長くなると視界をさえぎることもあり、重圧感や圧迫感を感じやすいという側面もある。(5号池袋線 高島平)
●Y型橋脚
安定感をもたせつつ、横梁がないことで威圧感も軽減しているタイプのY型橋脚。高架の高さに応じて、Yの字の開き具合(角度)を変えることで、よりシンプルでスレンダーな印象を与えることができる。(左:川口線 本蓮)(右:9号深川線 辰巳)
●V型橋脚
Y型の下の部分がなくなったV型橋脚は、地面からの高さが低い場合でも閉鎖感を感じないつくり。Vの字の角度を開けばより安定志向に、閉じればよりシャープなイメージを生み出すことができる。(川口線 赤井)
●逆V型橋脚
V型橋脚を逆にすると、V型以上に安定感をもたらすことができる。ただし地面付近は柱が2本になってしまうため、若干閉塞感が増すこともあり、景観という点ではV型に一歩譲るカタチとなる。(5号池袋線 上池袋)
●H型橋脚
2本の脚につなぎ梁を入れたのがH型橋脚。頑丈そうという安心感を与えつつも、高さに余裕があれば景観を遮る弊害も軽減できる。しかし右の写真のように低い位置にあると、つなぎ梁の安定感が重圧感に変化する。(左:中央環状線 梅田)(右:川口線 入谷)
●逆L型橋脚
柱が横梁の真ん中にあるT型橋脚に対し、柱の位置をずらしている逆L型橋脚は、圧迫感が軽減するとともに、障害物があるなどの高架下条件をクリアできる、開放されるスペースが増えるなどのメリットがある。(左:1号上野線 上野駅前)(右:9号深川線 辰巳)
●剛結橋脚
なんとも勇ましい名前の剛結橋脚。橋脚と桁を連結し、横梁をなくした構造が特徴。横梁がないことで視覚的な閉鎖感は大きく軽減され、スッキリとした印象になる。桁との連結部を工夫(強度を上げる)し安定感を確保している。(湾岸線 新木場)
●ラケット型橋脚
上下2層に分かれている場合に使われるラケット型橋脚は、下を走る路線の立地条件(スペースなど)や採光面に考慮されたつくり。構造的にどうしても巨大になるため、威圧感や圧迫感を与えてしまうこともある。(美女木ジャンクション)
●段違い橋脚
上下2層の路線に使われるのはラケット型橋脚と同じだが、それを左右にずらした段違い橋脚。ラケット型にくらべて用地幅を広く確保する必要があるが、街路と高速双方の採光の面で有利になっている。ジャンクション等の複雑な構造部で多く採用されている。(都心環状線 アークヒルズ)
●壁式橋脚
もっとも安定感と安心感を与えるのがこの壁式橋脚。柱というよりはまさに壁。その分周囲の景観を分断してしまうマイナス面は否めない。だが、右の写真のように逆台形にしてその印象を和らげているケースもある。(左:4号新宿線 参宮橋)(右:3号渋谷線 渋谷)
橋脚にアクセントを加えネガティブな印象を和らげる
橋脚には上記のようにさまざまなバリエーションがあり、周辺状況や環境に応じてこれらを使い分けている。状況によっては、例えばH型橋脚でなければダメだというケースもあるだろう。しかし高さがない場合、そのままでは圧迫感や閉塞感を与えてしまいかねない。そんな少しでもこれらネガティブ要素を軽減したい時、橋脚にアクセントを加えることでクリアしているところもあるのだ。
これはH型橋脚でも登場した川口線の入谷の写真。橋脚の表面をよく見てみると、縦方向に何本ものスリットが入っていることがわかる。これは野球のユニフォームに多い縦縞のラインと同じ。少しでも背が高くスリムに見えるようにとの視覚効果を狙ったものだ。
似たような例として、6号三郷線の浮塚付近では、より幅の広いスリットを入れ表面に凸凹をつけることで、スレンダーな印象を与えている。
さらにこのスリットを明確に見せることで、上下方向への力の伝達をイメージさせ、視覚的な安定感もさらにアップさせている。
橋脚以外にもさまざまな工夫が施されている
桁裏(路面の裏側)も同じような目的で加工が施されている。左の写真は都心環状線の日本橋の高架下。桁裏に化粧板やルーバー、照明を設置することで明るさを確保するなどの美装化を行い、圧迫感を感じさせない工夫をしている。また右の1号上野線の上野付近でも同様に桁下を明るくする加工が施されている。
これらのように、走行中にはなかなか目にすることのできない高架下には、橋脚1つをとってもさまざまなバリエーションがあり、ネガティブな印象を解消するための工夫も数多い。橋脚などに込められた安定感をもたせつつ、圧迫感を与えないといった目的の陰には、周辺の状況や環境に少しでも馴染ませ、調和させるといった明確な意図が窺える。
もし今後高架下を走る機会があったら、ぜひ橋脚や桁裏に注目してみてほしい。走行と共に変化に富んだ都心のランドスケープが移り変わるたびに、きっと橋脚の種類や桁裏の表情が変わっていくはずだ。
■まとめ
さて今回は首都高の景観デザインの1回目として、高架下の橋脚を中心にお伝えしてきた。しかしながら、その内容はほんの一部に過ぎない。景観デザインには走行空間や緑化、カラーリングの工夫など、紹介しきれなかった要素がまだまだたくさん残っている。
例えばカーブの途中、側壁の向こうに背が高い樹が植えてあることにも、走行空間デザイン上の理由があるのだ。その辺りは次回以降にじっくりと。
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