連載
Vol.3 「4000人が首都高を走り抜けた」
~1987年9月6日~
いつも、じっと車の重みに耐えている寡黙な首都高さんですが、実はとても人 間のことをよく知っています。なにしろ、45年24時間片時も休まず、道の上で起こったいろいろな“事件”を見上げてきたのですから。このコラムは、その中でオモシロイできごとや興味深いできごとを拾います。そして、首都高 さんの1学年先輩!?である石黒謙吾が、現場レポートよろしく事件を検証! ただし、カジュアルかつ無責任かつゆるーくですけど。
朝日新聞1987年9月7日 付
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あなたは首都高の上を走ったことがありますか? ないでしょう?そうでしょうそうでしょう。普通そうですよね。しかし、ふふふ、僕はありますよ。雑誌編集者時代、大勢のスタッフとロケバスに乗ってグラビア撮影によく行ってた頃。千葉での撮影後、しこたまビール飲んで都内に戻ってきたところで大 渋滞。図らずも催してしまった尿意。さあガマン大会の始まりです、尿意、ドン!
しかし渋滞ぶりはとどまる所を知らず、遅々としてロケバスは進みません。 ああ、こんな苦しいのならいっそ車内で…と朦朧とした意識であってはいけないことを考え始ました。しかし時折顔を出す理性でなんとか押しとどまり、パーキングエリアまでがんばろうと決めて脂汗だらだら。そして、パーキングエ リアが目と鼻の先という位置まで来たところで、もう限界と、動かない車から 道路に飛び出し、路肩をちょっと先までダッシュ。トイレに駆け込み、ほっ。 こうして首都高を走った30歳は、タレントさんに失笑されながらも危機を回 避できたのでした。あ、手は洗ってなかったな。常識人なよいこのみなさまは 絶対にマネしないでくださいね。言われなくてもしないと思うけど……。
そしてこのたび、こんなアホな僕以外にも、首都高を走ったことがある人が 約4000人もいることがわかりました。しかも、1日で全員。みんながいっせいにオシッコしに車から降りたのでしょうか?……違いました。青森から熊 本までが1本の高速道路で結ばれることになる、首都高中央環状線、葛飾川口線、葛飾江戸川線の開通を3日後に控えた、1987年9月6日。
4000人が走った首都高を背に。足立区堀切橋近くの荒川河川敷にて
東京都の葛飾区、江戸川区、足立区、埼玉県の川口市の4ケ所で「ハイウェーマラソン」が行われたのです。30度を超える暑さの中、市民ランナーたちは10キロを走ります。この大会は、工事中の高速道路を見上げていた江戸川区の「葛西ランナーズ」のメンバーが「車が走る前にあそこを走ってみたいな~」と話していたことがきっかけとなり実現したもの。まず区に話をしたら区長までもが乗ってきてくれ、粘り強く何度も交渉を続け、首都高速道路公団がその声に応えてくれたのです。
マラソンファンたちはさすがにこんなチャンスは2度とないかもと思ったのでしょう、当初の定員を超える参加者が集まったんですね。たしかに高速道路で真ん中走るなんて映画のワンシーンみたいでかっこいい。ゆらゆらと立った 陽炎の中から頭が見え少しづつ姿が近づいてきて……なんてね。それから、もし僕が参加していたら、この際だから記念にと、一番ラストを走って、ほふく前進とかごろごろ転がるとか、仲間を募ってだるまさんが転んだとかもやったと思いますが、つまみ出されていたような気もします……。
制限速度80キロとかいう標識見ながら(そんなに出るわけねーだろー)とか、宇都宮100キロとか見て(行けないっつーの)とか毒づきながら走るものオモシロイかも。そうそうそれから、ふと思ったのですが、止まっているエスカレーターを昇っていくとふらふらするようなヘンな感覚に包まれますが、高速道路上で走ると、ああいうことにはならないのでしょうかね。
コースの中には、高さ30メートルの高架となっている、東京湾まで見渡せる絶景ポイントもあります。景色を楽しみながら、まだ1台の車も通っていない真新しいアスファルトの上を駆け抜けていくのは気分よかったでしょうねえ。
「轍より 先に残せる 足跡や」(謙吾)
大会から3日後、首都高・中央環状線は無事に開通。それ以来、首都高の上を人が走ることはなくなりました。表向きは。それから3年ほどあと、本能のおもむくまま路肩をダッシュしたひとりのいい大人がいたことを、多くの人は 知りません……。
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映画化もされた『盲導犬クイールの一生』から、『ダジャレ ヌーヴォー』『図解でユカイ』『cq判定 常識力テスト』『ベルギービール大全』などカルチャー路線まで著書多数。最新刊で初の短編小説集『犬がいたから』(集英社)が好評。
[次回の予告] レインボーブリッジといえばライトアップ
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